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コンセプトとはなにか
クリエイティブな現場では多用される言葉であるが、その意味ははっきりしない。新規事業を立ち上げる際にも「コンセプト」が重要だと言われるが、それが何を意味するのか曖昧だ。
コンセプトとはなにかがわからずコンセプトをつくることはできない。
コンセプトを辞書で引いてみると、およそこのような意味が書いてある。
- 既成概念を壊すもの
- 新しい価値観を創るもの
- 全体を貫く(骨格を作る)視点や考え方
- すべての活動の指針となるもの
なるほど、コンセプトに100人100様の定義があるのは、コンセプトがもつ両義性による。コンセプトは概念そのものであり、また同時に概念を壊すものでもあるのだ。
創造と破壊が同時存在する両義的存在。
破壊神=創造神というような両義性。
これがコンセプトの正体なのだ。
コンセプトを論じる時は、この両義性をしっかりととらえながら、 検討していかねばなるまい。
コンセプトとは超越
そもそもコンセプトには時空を超越する力がある。というのも、コンセプト自体が、その時代時代を形作っている、あるいは根底に流れる共通要素や枠組み、様式や体系、価値観を含むからだ。これはつまり、世界観である。
たとえば、時代劇。
その当時の様子を詳細に描こうとすれば、衣食住や文化、言語など、そこに表現されるものすべてに一貫したコンセプトが見て取れる。
そしてそれらは時空を超越して伝わり、今に生きる我々にも当時の様子としてありありと伝わるのである。
コンセプトとは美しさ
美しいとはなにかがわからないと美しさを語ることはできない。
自然のものは美しいと言うが、美しさとはナチュラルな状態、つまり、そのものらしさが最大限に表現されている状態を言う。自分らしさというとき、それはありのままとかあるがままの自分を言い表す。余談であるが、ありのままとあるがままの違いは、一言で言うなら、状態と特徴である。冷蔵庫でキンキンに冷えた缶ビール(状態)とアルミ缶に入った500ml のビール(特徴)の違いだ。
また、男らしさや女らしさというときには、男や女の特徴や要件、つまり、両者を明確に区分ける「違い」にフォーカスする。
例えば、歌舞伎の女形をみていると何が女性らしさなのかがよく分かる。らしさが強調されていて、本物の女性以上に女性らしくすら感じることがある。
違いはらしさの強調であり、らしさは美しい。
コンセプトには「らしさ」を定義し、「違い」を明確にし、それをより美しくする力がある。
コンセプトとは定義
「らしさ」や「違い」、「美しさ」にしても、「時代」にしても、「既成概念」にしても、「新しい概念」にしても、それが何であるかを定義するのは言葉である。
つまり、コンセプトを定めるとは言語化して定義することに他ならない。
コンセプト不明確というのは、言語不明瞭で定義不十分なのであり、言語が不明瞭だからとるべき行動も不明確になるのだ。女らしさとはこうである、という言語による定義が明確に為されているのであれば、そのコンセプトが与えられたとき、人はそのように振る舞う(行動する)ことが出来るようになる。(※もちろんある程度の練習は必要だ)
コンセプトとは使命
コンセプトが、今(時代)何(定義・言語化)をどうするか(行動)に影響をおよぼすものであるのならば、人生や仕事において重要なことの8割は、コンセプトの決定である。
つまり、「どうするか」より「なにをするか」を決めることだ。これは「使命」に他ならない。
コンセプトとは集中
学生時代、建築学科で設計を学んでいたわたしは、設計課題に取り組む時間や作業の8割をコンセプトメイクに費やしていた。
大学の課題だけでは将来建築家として活躍するためには絶対的に足りないと感じていたわたしは、先輩の課題のお手伝いを徹底的に行い、外部設計コンペや設計事務所でのアルバイトなどを積極的に行った。普通に過ごせば年に2,3個しかできない設計課題を、わたしの場合10倍の20~30個はゆうにこなしていた。おかげで、卒業するころには、わたしのポートフォリオには100を超える分厚いプロジェクトの束ができていた。
その上、趣味のバイクではあちこツーリング三昧で、レストランでも週6で働いていたので、睡眠時間は平均2時間程度だった。
大量の課題をこなす中で見出したのが、作業を効率化し集中するためには、コンセプトが何よりも重要ということだった。コンセプトがバシッと決まれば、あとはやることが明確になり一気呵成に仕上げることが出来ると経験的に知ったのだ。
ちなみに、経験を確保するために効率化と集中がテーマだったわたしは、友人たちが製図室で手書きに精を出している中、CADによる図面と3DCGによるプレゼンテーションを実現した。学年で最も早くデスクトップPCとA3ノビに対応したプリンター、巨匠たちのドローイングをストックするためのスキャナーを導入した。
当時、Windows98が出たばかりで、パソコンといえば超高級だった。しかしながら、週6でバイトをいくつも掛け持ちしていたわたしは、フルセットで50万円以上したパソコンをキャッシュで購入できた。
コンセプトとは未来創造
コンセプトには未来を描く力がある。というのも、建築とは、ある意味で、現状の否定、破壊からスタートし、そこから新しい何かを構築する試みであった。シュンペーターの言葉を借りれば、それは創造的破壊(Creative Destruction)であり、ジャック・デリダの言葉を借りれば、それは脱構築(Déconstruction)である。
古い体系を解体・廃棄し、要素を分解したのちに、新しい価値観・新しいルールで再構築する営みは、まさに未来創造と呼ぶにふさわしい。
コンセプトが未来をつくるのであるならば、それは、あるべき姿(ビジョン)を指し示すものであり、それに向けてどういう行動をすればよいか示唆を与えてくれるものである。
つまり、コンセプトは、あるべき姿を示し、とるべき行動を示唆する。したがって、コンセプトは、ビジョンを示し、ミッションを与えるものでもある。
コンセプトとは目的
〇〇のために、〇〇なようにという時、コンセプトはそのまま目的となる。企業経営においては、コンセプトが、あるべき姿を示し(ビジョン)、とるべき行動を示唆するもの(ミッション)として機能する。
仕事や業務レベルにおいては、コンセプトは、あるべき姿を示し(目的)、とるべき行動(ゴールと目標)を示唆するものとなる。
コンセプトとは生き様
コンセプトを人生にあてはめて考えてみると、それは生き様に他ならない。それはあるべき姿であり、生きる目的、使命でもあるからだ。
例えば、「あの人は集中の人だと」言った時、常に優先順位の高いものに集中し、時間価値を最大限に高めて成果を出し続ける人のことを言ったりする。
すなわち、人生にとってのコンセプトとは、その人のあり方を規定し、その人の人生をよりパワフルで充実したものにしてくれるるものとなる。これからどうなりたいのか、どういう人生にしたいのかを決定づけるのは、どんなコンセプトをもつか次第とも言える。
コンセプトとは羅針盤
コンセプトとは、まさにそのものの存在理由に関わっているといえる。現実と理想のギャップに関わり、他となにがどう違うのかを常に問いかけてくる。それが何であろうと、他と何がどう違うのか、それはどれくらい違うのか、それが価値だと言わんばかりだ。
こうしたものさしを持つことによって、進むべき進路やどういう装備でいけばよいかが明確になる。これがコンセプトの持つパワーだ。
つまり、コンセプトとは、羅針盤、コンパスの役割も担う。ある目的のためにあなたがどうあるべきか、あなた自身のあり方を定め、行くべき方へ導くもの、それがコンセプトなのだ。
コンセプトをつくるもの
コンセプトに未来を描く力があるとするなら、コンセプトをつくるもの、つまり、コンセプトメーカーは、文字通り未来を描き、未来を創る者、未来創造者である。
そして、自分で自分の未来をつくる主体者は皆、未来創造者、すなわち、コンセプトメーカーなのだ。
まとめ
以上、ここまでで触れてきたコンセプトの側面を辞書的な意味を踏まえてまとめてみるとこうなる。
コンセプトとは、
- 破壊と創造
- 超越
- 美しさ
- 定義
- 使命
- 集中
- 未来創造
- 目的
- 生き様
- 羅針盤
以上、良いコンセプトはあなたに望ましい未来を創造させ、そこへ導いてくれる羅針盤となる。望ましい未来を自分で創造できるか否かは、あなたが良いコンセプトを持つことが出来るかどうかにかかっている。