家業から企業の経営戦略|目的からはじめよ

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経営戦略がなぜ必要なのか

家業から企業への成長期にある会社にとって、経営戦略が重要であることは、ここであえて説明しない。なぜなら、そのステージにいる会社の経営者は、その必要性をすでに実感しているはずだからだ。もしあなたが、経営戦略など不要だと感じているのであれば、あなたはまだ企業ではなく家業のステージにいるのかもしれない。

ビジネスが、生業で商売で、家業のステージであれば、必要なのはもっぱらやり方(戦術)だったかもしれないが、それが、事業で経営で、企業のステージともなれば、やり方(戦術)以上に、あり方(戦略)が重要である。

戦略とは、事業を通じて「どこで・だれに・なにを」提供することで、ライバルと差別化し顧客に特別化した存在価値を発揮するかという考え方であり、戦術とは、戦略に基づきそれを「どのように」実現するかという具体的な方法論だからだ。

したがって、戦略なき戦術は本来無意味である。(ところが、それでなんとかなってしまうことがあるのが家業である。)

生業から事業へ、商売から経営へ、家業から企業への成長期を経て、経営者は、企業経営や事業運営のあらゆるパートを俯瞰し、部分最適ではなく全体最適を目指していくことになる。

「会社全体としてこういう方針でいくから、営業はこうする、開発はこうする、人事はこうする、マーケティングはこうする」

と部門を横断してリーダーシップを発揮しなければならない。そのときに必要な核となる指針こそが、経営戦略である。

目的からはじめよ

経営戦略の立案に関わらず、何事も目的からはじめることが重要だ。こと家業から企業の成長期では、経営者がいちいち「あれやれこれやれ」と指示することが煩わしくなってくる。部門毎に責任者が現れたりして、指示が間接的になってくる。

やがて指示の伝言ゲームが始まると、事業を最前線で動かすメンバーには指示が間違って伝わっていたり、経営者の思いや考えがきちんと伝わっていないと感じるようになる。

最前線のメンバーは、経営者の思いや考えが十分に伝わらないまま、あれやれこれやれと指示だけが降ってくるようになると、何のためにこの仕事をしているのかわからなくなる。

目的がわからずやらされ仕事をしていると、当然のことながら成果がでない。成果がでないと上からは怒号が飛んできて、しまいには、「頭を使え。仕事の目的を考えろ。戦略がない。」などと怒られることになる。

こうして社員の働く目的は生活のため仕方なくとなり、まもなく仕事へのやりがいを失って行くことになる。

これはまったくおかしなことだ。目的や戦略はトップが決定することで、それが確実に実行されるよう部下を支援するのがマネージャーの仕事である。

ところが、トップが目的や戦略を伝えず、マネージャーが部下のやる気を削いでしまっている組織は枚挙に暇ない。

目的を見失った組織は、出すべき成果もわからず、ただ呼吸をして二酸化炭素を排出するだけの社会毒になり、やがて淘汰の運命をたどることになる。

しばしば、「目的や戦略はトップが考えること」とする風潮があるが、これは間違いである。トップはあくまでも決定が仕事であって、考えるのは全員でなければならない。そうでないといくら「全員経営」、「経営者感覚」と声高に叫んだところで絵に描いた餅にすぎない。

企業の目的はなにか

何は差し置いても「目的」こそが重要である。「目的」のない企業には存在価値がない。存在価値のない企業はやがて存在理由をも失うのだ。

そもそも企業とは、事業を通じて利益を得ることで存在している。利益は顧客だけがもたらすこともができるのであるから、企業は事業を通じて顧客に貢献することによって対価を得ているわけだ。

このことを、P・F・ドラッカーは、

企業の目的は1つしか無い、顧客の創造である。

と言っているのだ。

では、顧客の創造とはなにか。

不とるが価値

太るが勝ちではない。不とるが価値である。

不とは、不平不満、不便不足、不快不安など、不がつくイライラやモヤモヤの原因の頭文字をとったもので、そこに不自由を感じる人の不をとることが価値に繋がるという意味だ。

不とるが価値。顧客の創造とは、簡単に言えばこういうことである。

マーケティングとイノベーション

さて、不にはすでに顕在化しているものと、まだ潜在化しているものがある。

顕在化している不をとる活動をマーケティングといい、潜在化している不をとる活動をイノベーションという。

マーケティングとは市場適応活動であり、イノベーションとは市場創造活動である。

マーケティングはニーズ(Needs)に応え、イノベーションはウォンツ(Wants)に応える。

マネジメントの役割

ここに、マーケティングとイノベーションの生産性を向上し、成果を最大化するものがある。マネジメントである。

企業の目的は顧客の創造だった。顧客の創造を行う機能としてマーケティングとイノベーションがあり、そしてその成果を最大化するためにマネジメントがあるわけだ。

マネジメントを開発したドラッカーは、マネジメントには次の3つの役割があるという。

第1に自らの組織に特有の使命を果たすことである。

第2に仕事を通じて働く人を生かすことである。

第3に自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献することである。

3つの役割を全うするには、全てにおいて目的が明確でなければならない。

なんのためにやるのか。なぜそれをやるのか。

家業と企業のマネジメントの違い

いささか極論ではあるが、わかりやすく比較すると、家業は労働時間(入力/インプット)に注目し、企業は創出価値(出力/アウトプット)に注目する。

家業におけるマネジメントとは、多くの場合より多くの成果を出すために仕事を増やし管理することで、顧客満足(CS)を重視するが、企業におけるマネジメントは、同じ成果をより少ない時間と労力で出すために余計な仕事を減らし処分することで、従業員満足(ES)を重視する。

従業員満足は顧客満足も株主満足も生み出し、社会の問題解決に貢献し、社会的責任にも応える。

もちろん一概にはこうだと言い切ることは出来ない。往々にして、それぞれ逆のこともあろう。異論反論多分にあるかと思うが、それは承知のうえで、あくまで違いをシンプルに理解するためのコントラストだとお考えいただきたい。

手段が目的化する不幸な組織

手段の目的化は特に家業のステージで多くみられる。働くこと、仕事することが目的化してしまい、どれだけ価値を創出しているかに意識が行かない。

手段が目的化した組織では、残業が美学で会社への貢献だと勘違いしている。手段が目的化した組織では、成果の伴わない仕事に対して、無意味であるとか無価値であることを告げると、猛反発を食らう。

「自分なりに精一杯努力してやっています。そこは評価されるべきではないでしょうか。」

評価は労働時間ではなく創出価値で図られるべきである。そうでないと非生産的な人間が増え続けることになる。大企業で大リストラを敢行したのち、1人の業務負担は増えるかとおもいきや、そんなに変わらなかったというのと一緒である。

非生産的な人間は、ほとんど生産的なことをしていないため、いなくなっても業務に支障をきたすほどのインパクトをもたらし得ない。

したがって、なにはともあれ目的からはじめることが重要である。なぜなんのためにそれを行うのか。目的の設定なしに生産的な仕事は実現できない。

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後藤健太

【サムライ社長】
斬法総合研究所所長/真剣武士道指南役
株式会社コンセプト・コア代表取締役/経営コンサルタント
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