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会社経営のアドバイザリー業をしていると、抜本的改革が必要なシーンが多々あるので、「抜本的に変えましょう」、と根本的なあり方の変容を迫るシーンが多くある。
この時、抜本的と言った場合に人によってその度合いに差があると感じることがある。
抜本的に変えるというのは「やり方」レベルの変更ではなく「あり方」から変えるという意味だ。
方法論の変更は単にやり方の変更であるから抜本的にはなりえない。
根本的な誤り、抜本的な処置(対策)というよりに、似ているようで違う根本と抜本。
辞書的な意味を調べてみよう。
根本的とは
[形動]物事が成り立っているおおもとに関するさま。基本的であるさま。「根本的な誤り」
抜本的とは
[形動]根本に立ち戻って是正するさま。「抜本的な処置をとる」
ということだ。
根本的と抜本的の違いは、根本的が物事のありようを表すのに対し、抜本的はそれを是正する、改めることを意味するということだ。
英語で見てみよう
根本的は
essential、primal、cardinal、fundamental、central、key、basic、underlying、rudimentary
抜本的は
drastic、radical、profound、fundamental
である。fundamentalだけ重複するが、このように英語にしてみるとそのニュアンスの違いも分かりやすい。
ラディカルという言葉が出てきたついでに。
建築を学んでいた学生時代、大学院受験の面接で「構法」と「工法」の違いについて論じた際にラディカル・テクトニクスの説明をしたところ、面接官であった大学教授よりこの場合の「Radical」とはどういう意味か説明を求められたので、構法と工法の違いは「ありよう」と「やりよう」の違いであるからラディカル・テクトニクスとは根本的なありようの変容を意味すると答えたのを思い出した。
これは建築学の恩師の教えであるが、その後、建築方面に進まず経営コンサルタントとなった今においても、当時の教えどおりに「ありよう」と「やりよう」についてクライアントに経営指導しているのだから人生面白いものだ。
「あり方」を定義もしくは再定義し新しい自分や自社(とその商品やサービス)と出会う「世界観コンサルティング」は当社の必殺技であるし、会社のあり方を見直し経営を立て直す「カンパニー・リノベーション Company Renovation」は当社の主力サービスである。
余談であった。
抜本的に変えるといったとき、せいぜい「やり方の変更」にばかり意識が集中してしまう人がいる。そうではなく「あり方の変容」こそが抜本的の真の意味であるから、ある意味で「ありえない」ことをすることにもなる。
たとえば、美容室の場合、普通の美容室を思い浮かべた上で「ありえない美容室」を空想してみよう。
技術やサービスは良いのは当たり前、というところからスタートしてみよう。
出店場所は?規模は?営業時間は?などなど。
たとえば「営業時間がありえない美容室」というのを考えてみよう。普通の美容室は定休日があり多少の前後はあるとしても午前10時くらいから午後は20時くらいまで営業しているところが多いのではないだろうか。「営業時間がありえない美容室」を考えるのだから普通の美容室が空いていない時間帯に空いてる美容室とすれば良い。
昼夜逆転は流石にやり過ぎな感じもするので少しだけずらしてみる。夕方にオープンして深夜にクローズする美容室にしてみよう。
するとどうだろう。平日夜の時間帯は会社帰りの会社員やOLさんで溢れかえった。シャンプーしてブローしたまま帰ればその日は顔と体だけさっと洗って寝ればいいという手軽さが大いにウケた。当初帰宅時間に集中していた予約は、一旦家に帰って部屋着に着替えてきたり、風呂や夕飯も済ませてきてあとは寝るだけ、という人が来店するようになり、深夜までまんべんなく埋まるようになった。
日中忙しい人が多いため、物販の売上が日中より増えた。美容や健康に対する意識が高い人が多く、あとの予定がなく時間的余裕もあるためカット以外のリラクゼーションメニューの注文も増加。また、リラクゼーションの要素が強まったために、髪が伸びたから切る、という差し迫ったニーズ以外でのニーズ、つまり、カット以外のリラクゼーションメニュー目的の来店も増えた。中には、カットは1000円カットなどで空き時間にぱぱっと済ませ、それ以外のカラーやパーマ、リラクゼーションメニューはこちらでという使い分けも現れた。結果、客単価が大幅に向上し全体的な売上も増えた。
シミュレーション風に書いてみたがこれは私の一顧問先の事例であり実例である。
この美容室は居抜きで買い取った。前美容室はいわゆる「普通の美容室」であった。とくべつに技術やサービスが悪いわけではなく、これといった明確な閉店理由も見つからなかったが、普通であるがゆえに競合店との差別化がうまく行かず生き残れなかった、といえばこれまた「普通の閉店理由」である。
当然、普通の理由で潰れた普通の美容室と同じ普通のことをしていては同じ轍を踏むことになる。
エリアマーケティングのみならず、周囲を歩いて調査してみると1Rから1LDKのアパートやマンションが多いことに気づいた。また、夜間営業の個人経営の飲食店も多くあり、チェーン店は早い・安い・うまい系が多く見られた。駅前にはコンビニチェーンも集中している。このことから日中勤務もしくは通学の単身者が多くいるエリアであることが想像できた。
このボリュームゾーンは日中はどこか外に働きに行くか勉強しに行っており夕方から夜にかけて戻ってくるから、そこを捉えることにした。日中はお休みにして彼らが帰ってくる時間帯に合わせてオープンし寝るまでの間を営業時間とした。
狙いはあたり前述の通りの結果となった。
副次効果として、普通の美容室では若手は営業時間終了後に店内で技術向上のための練習や店舗研修が行われるが、この店では日中ディーラーや美容学校主催の質の高い研修に参加することができ、そのまま出勤して習ってきたことを現場で復習するというようなことができるようになり、従業員のスピード育成が可能になった。
夜のお店が多い繁華街では出勤前のホストやホステスを相手にした特殊な美容室をよく見ることはあるが、単身者が多く住むエリアでの夜間営業美容室は珍しく競合も少なかった。そこに競合となりうるお店がいくつあっても競合店の営業時間外の時間に競合店は存在しない。これぞレッドオーシャンの中のブルーオーシャンでもある。
このように普通では「ありえない」ことを構想していくと抜本的な解決となる場合がある。参考にしてもらえれば幸いだ。