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踵(きびす)を強く踏むべしとは、宮本武蔵も五輪書の中で言っているが、今日の稽古会で検証してみたいことはまさに踵の運用であった。
足に重さと書いて踵。
踵は重さを威力に転換する武道においてまさに要の一つであると思っている。
テーマを踵と決めたら踵を見続ける。定点観測だ。木を見て森を見ずという言葉があるが、森だけを見ていても木は見えない。どちらの視点も必要なのだ。
稽古会を行っている武道場は個人開放の時間帯を利用しているため色々な団体の色々なレベルの人たちが雑多に稽古しているため観察に事欠かない。
一緒に稽古している剣友の稽古模様を見学するだけでも勉強になる。
これが見取り稽古。
さて、踵を見続けた結果、体重をうまく威力に転換できている人というのは踵にまったく浮きがない。つまり、踵(きびす)は強く踏まれている。一方で、体重をうまく威力に転換できない人というのは決まってつま先立ちである。
試してみよう。
杖によるお辞儀潰しで、潰せる通常のやり方(踵はしっかり着地)とつま先立ちで比較してみる。
一目瞭然。
これに普遍性があるかどうかは、他の技でも応用してみて検証してみればよい。
剣術、抜刀術などなど。全てにおいて検証してみて間違いなさそうだと確認。
体感として実感できならな論理的に分析して理論化する。
人体は骨と筋肉とそれを繋ぐ関節の連動で運動が生じるものだから、つまりは関節の曲げ伸ばしで動作する。
踵に注目するなら足関節(足首)の曲げ伸ばしに注目する。
結論だけ書いてしまえば、早く強く動く時に足関節は伸びずに屈曲する。つまり、踵は踏ん張る。
つま先立ちしてしまうと足関節は伸展するから力は抜けてしまう。
これは足関節だけでなく膝関節、股関節を含めたトリプルエクステンション全てに言えることだ。
つまり早く強く動く時、足関節は屈曲していなければならない。足関節が伸展する(つま先立つ)と力は抜け、バランスが崩れる。重心がズレるからだ。
足関節を屈曲させたままにして推進力や跳躍力を得るためには股関節と膝関節の伸展が必要。特に股関節。膝関節は意識すると膝を痛めるリスクがある。
足関節を屈曲させたままマックスパワーの股関節を伸展させる。膝関節は軽く緩めておけば股関節に連動してナチュラルに伸展するに任せればよい。このとき膝は伸ばしきらないでおけば引き足の早さに繋がる。
つまるところこれは重心と支点のモーメントアームである。
つま先支点は踵支点に比べて重心からの距離が遠いため、作用に時間がかかる上に同じ力を発揮しようとすると余分に出力が必要。
したがって、つま先支点の場合タメが必要となりオコリも悟られやすい。
踵支点は、小さい力で早く大きな力を発揮することができる。
単に距離だけの問題ではない。
つま先支点はふくらはぎの筋肉は収縮するが、踵支点の場合ふくらはぎは伸展する。
つま先支点の場合収縮するふくらはぎの筋肉のために出力が相殺となりまるで力が入らないが、踵支点の場合伸展するふくらはぎの筋肉によりプラスアルファの出力が容易に得られる。
稽古会をしている新宿の武道場では剣道の人たちも多くいるが、踵を浮かしてつま先立ちでステップをするのを見るたびにオコリが見え見えで初動も遅く、たしかに瞬発力的な速さはあるのかもしれないが、武道的な早さはまったくないなぁと感じていたことが、なるほどやはり踵は重要だと再確認するきっかけとなった。
そんなことを考えていた時にそういえばとふと思い出した。
剣道十段の持田盛二先生は踵がベタ付きだったと記憶している。
動画を見つけたので掲載しておこう。
記憶に間違いはなかった。
やはり踵はベタづき。初動はこの上なく早い。オコリはほとんど見えない。
対戦者もかなりの腕前のはずだが、持田十段の前には霞んでしまう。瞬発力を活かして激しく動き回っているようにみえるが、爪先立ってるからオコリも見え見えだし、速いけど早さがない。
斬法においても後ろ足の踵を上げて斬る人が後を絶たない。私はこれを口酸っぱく注意して来たが、いまだかつてそれをきちんと理解しようとするものはただの一人としていない。理解しようとさえしないから当然誰もできていない。
踵がついていようが上がっていようが斬れさえすればよいと思っているから直そうとすらしない、残念なことだ。