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なぜダメな経営者を見抜けるか
わたしは、雇われコンサル時代に経営相談窓口をしていたこともあり、1日に15件前後、月間300件以上、年間4000件前後を5年間にわたって行ってきた。
独立し自分で会社を経営するようになってからも、このスタイルは変えず、事業推進や経営に関する相談については原則無料で受けてきている。(相談者が自力で解決できそうもない案件については有償で仕事を請け負うことにしている)
無料相談会は随時開催しているのでお気軽にどうぞ。
さて、そんなこんなで気づけば2万件以上の経営相談を一人で行ってきたわけだが、これだけ相談を受けていると否が応でも「こういう経営者はだからダメなのだ」というパターンが自ずと見えてくるようになる。
意思決定の速さ
気づくと時代に取り残され、ライバルに追い付きようがない差をあけられてしまっていた、ということは珍しくない。飲食業や不動産・建設業、印刷業など、昔ながらの業種は顕著だ。
経営においてとくに、”意思決定の速さ”というのは企業の存続を左右する重要なファクターである。ダメな経営者ほど意思決定は遅い傾向にあり、最悪なパターンは結局意思決定しないということも少なくない。
結論を先送りにして異変を察知しておきながら外部環境の変化に飲み込まれることになる。優れた経営者はそれを成功の機会(チャンス)と捉えるが、ダメな経営者は失敗の理由(言い訳)と捉える。
今回は、そんなダメなパターンの中でもわかりやすい「意思決定」について書いてみよう。
経営者の仕事
経営者に「経営者のもっとも重要な仕事とはなんですか?」と質問すると、いくつもある重要な仕事のうち一つだけ上げるとすれば、それは「意思決定」であると答えるだろう。
しばしば、経営者は孤独な職務だとこぼす人は多いが、オフィスに座って考え込んでいてもダメである。優れた経営者は常に人と会い、意思決定のためのプライマリ情報を収集している。(*インターネットや新聞、本や雑誌などの加工され編集された情報をセカンダリ情報という)
ある経営者は、月に一度、外部の経営者仲間やコンサルタントなどの有識者、色々な分野の専門家などと集まって、何か変わったことはないか、世界では今なにが起きているかなど情報を交換し合い、変化の兆しを捉えようとしている。彼らは、自社の所属する業界だけでなくもっと広い視野で物事を把握している。というのも、ある業界を揺るがすトレンドは、やがて他の業界に波及することを知っているからである。
この意味で、意思決定とはすなわち、未来予測であるとも言える。未来など予測できないという人も多いが、仮説を立てて、それを検証するためにどんな情報があればそれを裏付けられるか、あるいは正確に言い当てることは不可能だとしても、トレンドとして増えるのか減るのかを予測することは不可能ではない。多かれ少なかれ、優れた経営者は未来予測の手法にいくつか精通していて、それを駆使してライバルよりも早く意思決定することの重要さを認識している。
たとえば、当社では、食用油の不純物を浄化することで鮮度を保ち、揚物をおいしくする「澄みさら」という製品を企画開発したが、これは、2005年12月5日にニューヨーク市で市内の2万4000軒の飲食店に対し、心臓病の一因とも言われている人工添加物・トランス脂肪酸(TFA)を含む食用油の使用を全面的に禁止する決定を行った、というニュースを知り、米国に遅れること10年前後で規制が設けられる傾向がある日本でも、2015年前後に同様の規制が敷かれるだろうと予測しての事だ。
こうした変化の兆しを捉え、それを解決するためのアイデアを考えることは、ビジネスチャンスを掴むことにも繋がる。そういう意味で戦略とは先手を打つことである。
余談ではあるが、こうした兆しを捉える好適な場として、社外の様々な経営者や経営幹部、また、事業家と話し合うことで、自社の戦略を協議する「達成会議」を当社主催にて毎月開催している。是非ご参加いただき社会の趨勢について戦略を練り、先手を協議してみることは有意義であろう。
意思決定がなぜ重要か
意思決定とは実行を伴うものであるから、そういう意味では力学的には「運動」に例えられる。運動とは質量×速さである。意思決定の場合の質量とは、意思決定者のパフォーマンス(才能・能力)だとすると、人間である以上そこに大差はない。だとするならば、よりダイナミックな実行を伴う意思決定には、なによりも速さ(スピード)こそが重要だということがわかる。当然のことながら、成果は行動からしかもたらされない。
経営者は常に数限りない意思決定に直面している。優れた経営者は、自らが注力すべきものはどれで、他の人に任せられるものはどれかを把握している。同時に、いつまでに意思決定を行うべきかを認識し、意思決定しない場合のリスクについても把握している。
ダメな経営者は、自らが意思決定すべきものすべきでないものも見抜くことができず、いつまでに意思決定しなければならないのか、意思決定しない場合のリスクは何かを把握していないため、失敗のための理由を量産することになる。
また、こういうパターンもダメである。人の意見をまともに聞けないタイプや根拠のない自信をもっているタイプ、逆に人の意見を鵜呑みにして信じきってしまう人頼りの消極的姿勢タイプである。
意思決定できない3つの理由
ダメな経営者が意思決定できないのには、3つの理由がある。3つの欠落していることがある。正確に言うと、もっとも重要な要因は、「覚悟」であったり「勇気」であったり、「鋼鉄の意思」であったりするのだが、それでは精神論的過ぎるので、誰もが普通に意思決定できるようになることを想定すると、
- 戦略がない
- 期限がない
- 方法がない
ということだ。
以下に順番に見ていこう。
1.戦略がない
戦略とは方向性を示すものであるから、その意味で目的とも言い換えることができる。 戦略の不在とは目的の不在であるから、そもそも何のために意思決定する必要があるかわからないわけだ。必要性を感じないから意思決定をできないのである。
また、戦略とは方針であるから、意思決定する場合においてもどういう方向に向くように意思決定すべきか、その方針がなければ意思決定することはできない。
さらには、どっちを選択するかですでに結果が明白なものとは違い、意思決定とは不確実性の中から可能性をつかみとる行為である。言い換えるならば、答えのないところに答えをつくる行為である。それは、どっちを選ぶにしてもそこから望ましい未来を創造する戦略にほかならない。
2.期限がない
経営コンサルタントの主要業務として、経営者の意思決定サポートがある。仕事が仕事なだけに、相談の多くは意思決定に纏わることが大半を占める。
そういう場合わたしが決まって質問するのは、
「いつまでになにがどうなっていれば理想なのか?」
ということだ。大抵はここで戦略の再確認をし、ビジョン・ミッション・バリューの見直しをすることになり、その結果、「あるべき姿、たつべき位置、とるべき行動」がわかってくるので意思決定がしやすくなる。(つまり、理想状態を実現するための期限を決める上においても戦略がないと決めることができない)
それでも決まらない場合、前進か後退か、右か左かまだ迷っているという場合には、
「決断期限の前夜0時までに意思決定すると決めて下さい。その日まで考えぬいてそれでも結論がでないならば、10円玉を投げて表ならGO、裏ならSTOPしてください。」
とお伝えする。当然そんな安易な決め方でいいのかと怪訝な顔をされることになるが、考えぬいて結論が出ないものは、結局どっちを選ぼうがその結果に大差はないということだ。結果に大差がないのであれば、あとは意思決定の速さこそが重要である。10円玉を投げてでも白黒ハッキリつけたほうが良い。
ちなみに、二者択一で白黒ハッキリつけ、その正しさを証明することを戦略という。
3.方法がない
上に紹介した、10円玉を投げる方法は単なる喩え話ではない。実際にそうやって意思決定する場合もあるし、大抵は、これに似た方法で意思決定することになる。
ようは白黒ハッキリつく方法であればなんでもよい。重要なことは、期限を区切り、その時点で決められなかった場合の意思決定方法をあらかじめ決めておくことだ。
例えば、お誘いをウケた交流会へ参加不参加の返事をしなければならない、という時、交流会に間に合う時間までに仕事が終われば、他のアポイントが入らなければ、などと色々と条件を決めることがあるが、これは方法ではなく単に条件である。些細なことなので悩むことも考えぬくことも必要ないが、こんなところにも意思決定はある。
まとめ
人生はイエス・ノー・ゲームの連続のようなものだ。今この瞬間は、過去のイエス・ノー・ゲームの結果の上にある。であるならば、これからの望ましい未来はこれからのイエス・ノー・ゲームの結果として現れてくるはずだ。
ここでちゃぶ台をひっくり返してしまうようなことを言えば、意思決定しないという決断もまた意思決定である。結果をすべて人頼りに、また、外部環境の変化に委ねるというわけだ。それもまた人生と思うし、そういう人生も肩の力が抜けていいもんだとも思う。
だがしかし、企業経営においては「意思決定」はなされるべきものである。特に、経営者がすべき意思決定とはまさに経営方針そのものである。経営者が、とあえて言ったのは、意思決定とは経営者だけの仕事ではないからだ。
会社同様に事業も一定のルールに基づいて遂行される。ルールに加えて戦略や期限、方法(いつまでになにをどうやって実現するのか)が定められてさえいれば、意思決定はほとんど誰であっても可能となる。
とはいえ、その場合、意思決定に至った理由は問うべきである。
その意思決定の目的と期待する結果、そしてコストはどのくらいかかるのか。目的が明確で、結果を出すための明快なプランがあり、コスト意識があれば、具体策は任せてしまってもよい。
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