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今日は格別に興奮している。
下段構えからの正面斬り(斬割)にさらなる進展が見られたからだ。
これは昨年秋に八相の構えから起こりを見せない瞬速の袈裟斬りを得たとき以来、いや。むしろそれ以上の衝撃があった。
2018年が始まってまだ1ヶ月を過ぎたところであるが、今年一番の発見になる(今のところは暫定首位)かもしれない。
金山先生との研究稽古は毎度新しい発見があるからやめられない。昨年7月末に始まり丸半年。この半年間で得た気付きと発見、それに伴う技の進化といったら、半年前の私の技量しか知らない人からすれば別人のようになっているはずだ。
これは金山先生においても同様で、半年前の先生と今の先生では(高次元で)別物である。
今まで様々な文献や映像資料などを集めては研究を重ねてきているが、資料は資料に過ぎないと思わざるを得ない。
ただ一つの斬りがわずか半年でこうも進化するというのは昨日時点での集大成など明日にはすでに陳腐化しており、古びて使い物にならないかもしれないことを表している。
もちろん時の流れに左右されない本質的で普遍的なものというのは絶対にある。本質的で普遍的なものとなってはじめて物事はあらゆる領域のあらゆる現象に適用可能となる。
たとえば、すべての技においては如何にオコリを消すか、筋力を使わないかは永遠のテーマであるし、突き詰めていけば行くほど研ぎ澄まされ美しさが出てくる。最終的には「美」しか残らなないかもしれない。
「美」は誰が見ても美しいから「美」たりうる。
その世界に精通していない人でもそれが美しいかどうかは誰にでも判断ができる。
そして、今日の下段構えからの正面斬りはため息が出るほど美しかった。
備忘録について詳しくは私と同じく興奮冷めやらない先生が帰宅後すぐに書き留めたブログにお任せすることにして、私はただ今日の気付きをなるべくその時の気分そのままに書き記すことに専念する。
下段構えからの正面斬りにおいては今まで下段から上段へ木刀を持ち上げる時に隆起していた首から肩にかけての筋肉が、全く作動しなくなった。
つまり、発剣に際し、オコリはほとんど消えたと言って良い。
最大最長距離を通過しているはずの下段構えからの正面斬りにもはや反応することがかなわない。
打ち合いをしても今まで持ち上げる動作で自然と拍子をとっていたのがなくなった。
打太刀の動きに合わせて仕太刀は後の先で余裕で間に合うし、よもや先に斬りつけることも可能だ。
持ち上げるという概念そのものが覆ってしまい、瞬間的にゼロ重量となった木刀が無重力空間を勝手に舞い、手の内の作り込みによってきれいな軌道を描いて斬り落とされる。
重量のゼロ化や無重力化は古武術における「浮沈の位」で馴染みの技であるから詳述しない。そもそも浮沈の概念が理解できない、身体化していない人はここで話していることは夢物語にしか聞こえないはずだ。
なんと形容すればよいのか、ごく自然に「木刀に合気をかけているような」と口走ってしまったが、古武術においては自身と敵の重量をいかにゼロコントロールするか、ここに技が凝縮されている。
剣術においても同様で、先日4キロの鍛錬棒で100回素振りした話をした際に、よくそんな重いもので100回もできますね、よほど筋力があるんですね、と驚かれたが、こんなものどんなに力があったところで筋力に頼っていてはたかが知れている。
4キロを0キロ、0グラムにしてしまう技術があってはじめてできることなのだ。
同じことが真剣でも言える。
重い真剣を筋力頼りに振っていてはすぐにへばって斬り殺されてしまうだろう。
さて、重さを消し、オコリを消し、詰まりや淀みを消すとどうなるかというと、慣性の法則が働き「正面斬りの永久機関」が完成する。
どういうことかというと、絶え間なく連続的に正面斬りを繰り出すことが可能になるということだ。
そしてこれがなんとも心地よい。心地よいのでそうしようと意図しなくても連続的に繰り出してしまうのだ。ごく自然に。もはや大いなる意志か何かに斬らされていると言っても良い(抗うことはできない)。
繰り出せば繰り出すほどに下半身のまとまりが生まれ安定感が増してくる。回転する駒のように。
この正面斬りの実現にあたっては、杖術の新技である流転落打(るてんおとしうち)の進展が大きく関わってきている。
全身を自由自在に運用して杖を中心に技を展開していくのだが、この身体操作により背中、特に肩甲骨周りがほぐれていく。背中の大きな筋肉の塊がより小さなブロックに分かれて、それぞれが連動して動作するようになってくる。
そうして背中を十分にほぐしておいたからこそ、今回の新しい正面斬りが生まれたのだと思う。そういう意味では導かれるべくして導かれたのであり、偶然ではなく必然の発見であったと言える。
流転落打の身体操作は今後他の技にもその波及効果を及ぼすであろうことはすでに先週のうちに予感していたが、まさか、剣術においてその成果を実感することになった。抜刀術でもなにか起きないかとても期待している。