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名刺交換をすると必ず聞かれることがあります。
「料理人がなぜコンサルタントになられたんですか?」
わたしの名刺には、肩書として“代表取締役料理家”との表記がしてあります。そのため、ほとんど誰もがこのことを聞かずにはいられず、こうした質問を誘発します。
こう聞かれるといつも、
「コンサルティングは料理と一緒なんです。」
と答えています。料理家はその食材を、どういう調理法でどういう味付けで食べたらおいしく食べることが出来るかを考えます。コンサルタントも、その企業がどういう戦略と戦術で事業展開すれば最小の労力で最大の価値を創出できるか考えるからです。
私は最初からコンサルタントになるつもりで「戦略的に」料理の道に入りました。コンサルタントになると決めた時点で、マインドセット(あり方)は「コンサルタント」に定義され、以後すべての選択と行動はここをベースに展開しています。
一口にコンサルタントと言ってもいろいろなコンサルタントがいるわけで、その他大勢の「コンサルタント」に埋もれてしまっては事業として成り立ちません。
フリーエージェント(独立事業主)として市場で活躍するためには、自分がもっとも力を発揮し、社会への貢献度が高く、かつ寝食を忘れるほど熱中して取り組める事業分野に選択と集中する必要があります。
わたしにとっては、「食」分野、料理関連、業種で言えば外食産業、業態で言えば飲食店分野こそが、もっとも貢献度高く、ハイパフォーマンスでやりがいを感じる分野でした。
*2018年7月追記
業容が広くなり、またクライアントも多業界多業種に及ぶようになったため、名刺の肩書は今は料理家が外され代表取締役とだけ表記されています。
料理人がコンサルタントになった背景
以前、このブログでも母校の後輩たちに向けて座談会を開催した様子を紹介しました。
「母校(私立清真学園高等学校)で高校1年生向けに職業座談会講師をしました」
この中でも少し触れているのですが、転機となる2度の大きな原体験がありました。
もう一度この場所を、来ると楽しい街に復活させたい!
1つ目は、ちょうどバブル崩壊後にあたる小学校高学年から中学生の頃の話です。幼少期に行くと楽しかった街の繁華街(商店街)は、当時隆盛を誇りだした大型ショッピングセンターの郊外進出により、街の中心が移動する減少が日本各地で起こっていました。
わたしが青年期まで過ごした地元の茨城も例外ではなく、シャッター街化する繁華街をリアルタイムに見たことで、自分の中で何か使命感のようなものが芽生えたのを覚えています。
「もう一度この場所を、来ると楽しい街に復活させたい!」
こうして後藤少年は「まちづくり」や「地域活性化」に対する興味を抱くことになります。
まちが死ぬ日
2つ目は、大学院卒業を控えた頃の話です。大学入学時よりアルバイトとして勤務していた今はなき繁盛洋食店が、オーナーの引退のため、閉店することになりました。
常連さんが足繁く通い、地域に愛されていたお店でしたので、大変惜しまれつつ幸せな閉店を迎えたのでした。
閉店して2週間たったある日、お店があった場所を自転車で通りかかると信じられない光景を目にします。店の目の前の電信柱には「痴漢ひったくり注意」の貼り紙が貼られ、ゴミは散乱、プランターの花々は枯れ果て、植栽は荒れ放題。
「まちが死んだ」
大袈裟でなくその表現がピッタリでした。大変悲しい気持ちになったのと同時に、天からの啓示を受けてカミナリを受けたような衝撃的な錯覚を覚えました。
「これだ!お客様が足繁く通い地域に愛されるこういうお店をたくさん増やしていけば、1店が2店、2店が3店になることで、点が線に、線が面になって街全体が活気づいてくるはずだ!」
こうして地域に根ざす小さな商店や会社、そこに住まい、そこで働く人々を笑顔にしていくことを通じて、世の中を明るくして行きたい、これがわたしの生きる道だと確信するようになります。
元料理人のコンサルタントの誕生
料理もサービスもできますが、自分が飲食店の店員として、あるいは店舗経営者として街と関わることは「違う」と感じていました。というのも、わたしくらいの腕前の料理人などこの世に掃いて捨てるほどいるのです。
料理人としてその日来店するお客様に「おいしい!」と喜んでいただく。もちろんこれはこれで大変素晴らしいことですが、それはわたしでない誰かができることです。それなのに、それが天職であると命を掛ける人の仕事を奪ってはいけないと思うのです。
自分にしか出来ないこと、自分にならできること、自分だけの特質や才能が最も発揮できて、それでいて、人様世間様に必要とされ、やりがいを感じることは何か。
これを突き詰めていった結果、地域に根ざし、世の中を明るくしようと努力する中小の商店や会社を支援するためにコンサルタントとして関わることを選びました。
業種業態はなんでもいい
「これから起業するにあたってなにをやればいいですか?」とはよく聞かれることですが、
「何をしようが構わない、何をするかは問題ではない」
とお答えします。
というのも、「何を」というのは手段の話であって、目的の話ではないからです。「何を」やるかの前に「何故」それをやるのかが重要です。
何をやればいいのかわからず、人にアドバイスを求める程度であれば起業しても十中八九失敗しますので、起業することはおすすめしません。
もし起業するのであれば(新規事業も同様ですが)、あなたがやりたいことで、あなたにしかできることで、かつ、それを求めている人がいるいることを見つけて、いなければそれを求める人をつくる(顧客創造する)ことで起業しましょう。
期待、希望、能力。この3つのサークルが重なりあう場所、そこが使命
この喩えはわたしが事業を分析したり、新規事業の立ち上げを支援する時に、コンサルティングでよくするお話です。少々わかりづらいので補足しますと、
- 期待とは応えるもの、つまり、ニーズやウォンツです。
- 希望とは叶えるもの、つまり、やりたいこと、またはその思い・情熱です。
- 能力とはみがくもの、つまり、できることです。
ニーズだけ捉えて「ビジネスチャンス!」と叫んで、出来もしないしそれほど情熱があるわけでもないのにはじめてしまったり、「これをやりたい!」という熱意だけで、出来もしないし世間から求められてもいないのにはじめてしまったり、「自分にはこれしかないから!」とニーズも熱意もないのに仕方なくはじめてしまったり、そういう人や事業が多いのです。
つまり、期待に応えず希望だけ叶えようとしていたり、能力がないのに期待に答えようとしたり、希望がないのに頼まれてできるから仕方なくやってみたり、ということが多いということです。
これでは期待にも応えられなければ、希望を叶えることもできません。
言ってみれば、この状態は期待、希望、能力の円が3つバラバラに孤立無縁に独立して存在している状態であり、それぞれを満たすためには、重なり合う部分をつくるように調整する必要があります。
こうして期待・希望・能力の3つの円が重なりあった部分が、あなたの事業のコアであり、使命(ミッション)です。
「コンサルティングは料理。」包丁を握るコンサルタントの誕生
「コンサルって何をするんですか?」
これも良く聞かれる質問です。色々なコンサルタントがいますので、なかなか実体が掴めないのだと思います。わたしのそれはとてもシンプルで簡単です。
コンサルティングは料理です。
調理する食材が、企業の経営課題に変わっただけのことです。
わたしは、明るい世の中をつくるために、「いいヒト・いいミセ・いいカイシャをつくる。」を経営理念に掲げて、地域を笑顔にする小さな商店や企業の課題解決を仕事にしています。
課題解決をするための中核技術は「料理」です。
まず、お店や企業のあるべき姿(コンセプト)を定義し、料理の全体像(ビジョン)を共有します。
次に、経営課題を特定して取り出し、調理しやすいサイズに切り分けます。
そして、どの部位をどういう調理法で調理するか方針を決め、できるだけシンプルに素材の良さが生きるように、おいしく食べられるように調理します。
こうして、お店や企業の抱える経営課題をまるで調理してご馳走をつくるように解決していくスタイルから、顧客企業の皆様より、いつしか「包丁を握るコンサルタント」と呼ばれるようになっていきました。
中小企業の経営コンサルタントとはホームドクターのようなもの
とは、よく先輩コンサルタント諸氏が例えておられますが、上述の通り、わたしのイメージは経験を積めば積むほど ”レストラン後藤のオーナーシェフ” なのです。
起業したての頃は先輩方が仰られるようにホームドクターのイメージで仕事していましたが、来院するのは、(こういう言い方は申し訳ないのですが)瀕死の重症患者ばかりでした。
待合室はさながら病気自慢をする高齢者の集会所です。診察室に来ればやれ下請け叩きだの、従業員が悪いだの、銀行が金を融通してくれないだの、不平不満だらけで、特効薬の処方ばかり求めるのです。
大変申し訳けありませんが他責は生活習慣病の一種であり、中には不治の病もあるようです。
そんな町医者からレストラン後藤のオーナーシェフに転じてからというもの、
- 「シェフこんなことやろうと思ってるんだけどどう思う?」
- 「これをヒットさせたいんだけどどうしたらいいかな?」
- 「会社をもっとよくしたいんどけどどうすればいいかな?」
- 「今度立ち上げる新規事業について相談したいんだけど?」
こんな面白い食材を持ち寄ってくれるお得意様ばかりが来店するようにまりました。 本当にありがたいことです。
こうしてわたしは感謝と真心込めて包丁(能力)を磨きつづけるのです。
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