- 今まで通りやっているが思うように集客できなくなってきた。
- お金をかけて人を採用してもすぐに辞めてしまいなかなかな人材が定着しない。
- 中核事業が衰退産業になり、新たな収益源を早急に確保しなければならない。
2013年、特に終盤の3ヶ月で当社に寄せられた経営相談のトップ3は上の3つに集約される。つまり、
- 集客
- 人材育成
- 新規事業
の悩みである。
おそらく、これらの悩みは2013年に限ったことではなく、いつの時代にも経営にはついて回る悩みに違いない。しかしながら、その背景にある様々な外的要因をシステマティックに紐解いてみると、今の時代に固有の傾向が見えてくる。
そこで今回は2013年トップ3の悩み相談に対し、当社の顧問先や顧客企業に対し、当社がアドバイスしたことを3つのポイントにまとめて紹介する。
それぞれの問題には実際はそれぞれに複数の解決ポイントがあるのだが、紙面の都合上、今回は3つの問題に共通するもっとも重要な3つのポイントについてお伝えしたい。
これは当社の最も好む問題解決アプローチでもある。つまり、100ある解決すべき問題のうち、もっとも重要な2~3の問題を解決すれば、他の90以上の問題が一挙に解決するようなてレバレッジが利く問題がある。
それを見極めて戦略的にアプローチするのだ。
これが当社が主要顧客とする、家業から企業への成長期にあって、経営資源が限られていている小さな会社のもっともベーシックな経営戦略の一つである。
当社の経営コンサルティングは使用する概念が独特なため、まずはそれぞれの概念の定義と説明から入る必要がある。
理想顧客の創造とは
「顧客の創造」とは、言わずと知れたP.F.ドラッカーのもっとも有名な言葉の一つである。それは企業の目的であり、かつ、それしかないと言い切っている。
企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。(中略)企業は、すでに欲求が感じられているところへ、その欲求を満足させる手段を提供する。(中略)それは有効需要に変えられるまでは潜在的な欲求であるにすぎない。有効需要に変えられて、初めて顧客と市場が誕生する。(P.F.ドラッカー)
そして、欲求に対する手段の提供方法には、マーケティングとイノベーションがあると言うわけだが、それは後述するとして、ここでは顧客の創造をあえて理想顧客の創造と言い換えたことについて説明しておかねばならない。
セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change)
あなたは、Theory of Change(セオリー・オブ・チェンジ)という言葉を知っているだろうか。第三世代の社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)たちが駆使する変革の方法論だ。
ある問題に対して因果関係を辿って行くことでその問題が継続的に引き起こされる一種の負のスパイラルを見つけることができる。その負の連環のどこを絶ち、あるいは改善することでもっとも効果的に問題を解決できるか考え、解決すべき問題を定義するのだ。
ここ最近の傾向は特に顕著であるが、これからの企業経営や競争戦略を考える上で、社会問題の解決は企業の使命と切っても切り離せなくなって来ている。
それは自社をとりまく小さな関係性の中だけで完結するものではなく、社会という全体的で包括的な繋がり(システム)の中にあって、自社がどんな使命(存在意義)をもっていて、社会や関係者にとってどんな存在価値をもつのかという根本的な存在理由に迫る問である。
つまり、今、あらゆる企業のあらゆる事業は、社会という全体システムにおいて、いかなる機能を担い、欠かすことのできない交換不能な重要なパーツであるかを示すように再定義されることが求められているとも言える。
3つの問題
顧客がだれかわからないという問題
「御社の顧客は誰ですか?」
これは必ず聞く質問であるが、相談者の中にいまだかつてこの質問に明快に応えられた経営者はいない。本人が自信満々に答えたとしてもそれは答えになっていないことがほとんどだ。
もちろん、顧客がだれかわからないから事業がうまくいかず相談に来るのであるが。それは当然のことであるが、まずは「自社が自社の顧客が誰かわからない」という事実を明確に認識すること、それが全てのスタートである。
経営で迷ったら顧客に聞け、顧客に立ち返れ、というが、これはまさに経営の原理原則である。したがって、ドラッカーの主張する企業の目的は顧客の創造であるというのもまた真理であるのだが、聞くべき顧客が明確でないと得るべき答えは自ずと間違ったものになるから注意が必要だ。
顧客の3種類3段階
顧客には3種類3段階あるというのは、当社の2万件を超える経営相談実績から導き出された原理原則の1つである。
まず、3種類の顧客とは、利用してくれるお客様(通常顧客)、一緒に働いてくれるお客様(従業員)、協力してくれるお客様(取引先)の3種類を言う。
そして、3段階の顧客とは、素性のわからない一時利用客(顧客)、素性が互いに良くしれた常連客(上顧客)、素性が互いに知れてかつこちらの経営を心配して貢献してくれる熱狂的なファン(理想顧客)の3段階を言う。
3種類の顧客について全て最深層の理想顧客を目指すことがゴールであり、これが理想顧客の創造である。
顧客の定義が曖昧だと素性のしれない誰か(ダス・マン、あるいは大衆、有象無象)を対象にすることになり、モヤっとしたものに提供する価値は結局モヤっとしたものになるのは当然のことである。
モヤっとしているものは、特定の誰かには届かない。
コンサルタントでいえば、中小企業専門とうたっているところは、世の中の会社の99%以上を占める顔の見えないどこかの中小企業を対象にしているのであって、個性的で特別な存在である「あなた」をきっと幸せにはしてくれないだろう。
コンサルタントに限らず、あなたがお金を支払う価値のある相手は、同じ商品やサービスを提供している他のライバルと比較して、その他大勢の誰かではなく、特別な「あなた」をもっとも幸せにしてくれる人やお店や企業である。
もうお気づきの方もいるかもしれないが、理想顧客を明確に定義することで、集客の悩みも、人材育成の悩みも、新規事業の悩みも大方は解決してしまうのである。
なぜなら、理想顧客を明確にするとは、事業の定義を明確にすることでもあるからだ。そして、この論考では理想顧客とシェアする共通価値を社会全体のシステムの中で重要な機能として再定義する必要性を一貫して主張しようとしている。
なぜ誰に誰とどんな価値を届けるのか。幸せにしたい特定の誰かを明確にし、その特定の誰かにもっとも適した価値を提供する。幸せにすべき顧客は誰か、幸せにすべき従業員は誰か、幸せにすべき取引先はだれか。つまり、集客、従業員・取引先、新規事業というわけだ。
自社の存在理由がわからないという問題
先日仙台で講演したときに、一緒に講演したホテルや旅館に強いコンサルタントである株式会社乾杯・KANPAIの松尾公輝さんが、実に面白いお話をされていた。
顧問先のビジネスホテルのフロントの女性に、自分の働くホテルの特徴を聞いたところ、「いわゆる普通のビジネスホテルです。」と答えたというのだ。
これはとても象徴的な話である。
当社の2万件を超える経営相談から導き出された原理原則の一つにも、企業と顧客の認識の不一致、ミスコミュニケーションがある。
たとえば、当社の主要顧客であるとある飲食店の例では、このお店はどんなお店かと質問すると、従業員によって千差万別な答えが返って来た。共通認識としては、客単価3000円くらいの居酒屋という回答であった。
ところが、実際にはこのお店の客単価は従業員の認識の倍である6000円前後であり、顧客のこのお店の認識は、そこそこ高級な料亭であって、チェーン店と同じような大衆居酒屋のイメージではなかった。
従業員がチェーン店と同じような大衆居酒屋のイメージで調理・接客していたのでは、そこそこ高級な料亭でそれなりの料理と接客を期待してきた顧客の期待をおもいっきり裏切ることになる。
これがこのお店が営業不振に陥った原因の一つである。
こういう例は飲食店に限らず枚挙にいとまがない。需要と供給の認識のギャップはそのまま理想と現実、期待と実際のギャップなり、やがてそれが問題として表面化することになる。
結局のところ、いわゆる普通のビジネスホテル、他と同じようなビジネスホテルに従業員があえて勤める理由、お客様があえて宿泊する理由はあるだろうか。
特徴を質問して答えが人によって千差万別になるということは、ウリ(特徴)がないということである。ウリ(特徴)がないというのは、素性のしれない誰か、つまり、顔なし(ダス・マン、あるいは大衆、有象無象)ということでもある。
利用してくれるお客様(一般顧客)にとって、一緒に働いてくれるお客様(従業員)にとって、 協力してくれるお客様(取引先)にとって、あなたのお店や会社、または商品やサービスを通じて提供する価値が、特別な存在になっているだろうか。継続して関係性を維持し続ける理由となっているだろうか。
お客様があなたのお店や会社になにを期待しているか正確に把握できているだろうか。お客様のニーズを明確に定義できているだろうか。
何をしたらいいのかわからないという問題
昨日売れていた商品やサービスが今日売れなくなる時代である。同じ商品やサービスが明日も売れ続ける保証などどこにもない。商品やサービスのライフサイクルはどんどん短くなっているように感じる。
衰退産業における新たな収益源の確立戦略は、新たな商品やサービスによって、新たな成長曲線を描くことである。理想的には中核事業が衰退期に入る前に新商品・新サービスの成長期をもってくることだ。
新規事業の陥りがちなワナは、新しければ良いというものではないということだ。前段で書いたように、お客様が何を期待しているか正確に把握して、その期待をニーズとして明確に定義しなければならない。さらには、社会的価値と事業価値(収益性)を両立している必要がある。
それは、経営学の最先端において共通価値と定義されるものであり、当社においては、内側にとっての存在理由であり、外側にとっての存在価値と定義しているものだ。
ところが、顧客がなにを期待しているかはそう簡単に把握することは出来ない。なぜなら、それはまだ顕在化していないかもしれないし、繰り返しになるが、それ以前に理想顧客は誰か明確に定義されていなければならない。
顕在化しているニーズに価値をフィットさせていく市場適応活動をマーケティングといい、まだない潜在ニーズを創り出す市場創造活動をイノベーションという。
何をしたら良いかという問いについて正解の一つは、マーケティングとイノベーションということになる。
つまり、今ある商品やサービスを昨日のニーズではなく、明日のニーズに適応させていくことと、今ある独自資源を活用して新しい商品やサービスをつくり、新たな市場を創造することだ。
くれぐれも、世間一般的な共通認識としてのビジネスチャンスだけを捕まえて、できもしないし、やりたくもないのにはじめてはいけないし、それしかできないからと言う理由で、やりたくもないし求められてもいないのにはじめてはいけない。そして、やりたいという情熱だけで、できもしないし、求められてもいないことに手を染めてはならない。
そこにあなたがやらねばならない、あなたでなければ出来ない明確な理由、つまり、使命(ミッション)がないからだ。
*3つの円について詳しくはコチラ
料理人がなぜ経営コンサルタントになったのか
まとめ:理想顧客と共通価値を定義せよ
長々と解説してきたが、集客、人材育成、新規事業という3つのトレンディな問題を攻略するための基本の考え方はとても単純だ。
考えてみて欲しい。ビジネスの基本は、需要と供給のバランスである。顧客や市場が消え失せたのではない。単に移り変わっているだけである。変化する需要に対し、供給が変化対応できていないのだ。
そのため、理想顧客の定義も常に変容するのであり、提供価値の共通認識も常に変容していかねばならない。理想顧客が変容しているのに提供価値が変容しないでいたら認識にギャップが生じるのは当然のことである。
そしていま、あなたの理想顧客はあなたとあなたの事業に対して、自分の欲求の解消だけでなく、社会の問題解決を求めている。つまり、社会的価値と事業価値の両立=共通価値を求めている。それは内側からみた存在理由であり、外側からみた存在価値である。
探せば探すほど見つかる選択肢があふれる今、あなたがあなたじゃなきゃダメと選ばれる理由は、社会への貢献度の高さであり、それが競争優位の源泉となっている。
人はもはや「何を」に動かされない。「何故」に動かされる。
同じものを同じお金を払って購入するとしたら、どうせなら社会貢献度の高い事業へ人は投資したいと思う。
ここで主張していることが常識になるには、あと10年くらいかかるかもしれない。ところが、世界の一部の優良企業ではすでに共通価値という新しい価値観に基づいて経営の舵をきり始めている。そして、当社の顧問先も言わずもがな理想顧客の創造と共通価値の創出という認識に基づいて劇的に業績を伸ばしはじめている。
理想顧客は誰か、存在理由は何か、これから何を新しく始めるべきか、この3つの質問に根拠をもって明確に答えられないのだとしたら、じっくり向き合ってみる時間が必要かもしれない。答えられるつもりになっているだけでまったく答えになっていないケースも多いから、そういう場合は第3者の専門家に意見を求めることをおすすめする。
2014年、この記事を最後まで読んで下さった皆様の会社と事業の発展を祈念致します。
株式会社コンセプト・コア 代表取締役料理家 後藤 健太
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