ヤマダ電機の今。止まらない凋落
今年3月期に2年連続で大幅な減収減益となり創業者の山田昇会長が社長に復帰、他の役員を一斉降格してテコ入れを図った家電量販店の“ガリバー”ヤマダ電機だが、連結最終損益が42億円の赤字となり、’02年の連結決算への移行後、4~9月期として初の最終赤字に陥った。
関係者曰く、
「屈辱決算に陥った最大の原因は、アマゾンなどのネット通販サイトとの価格競争の揚げ句、予想外に採算性が悪化したことだ」
「ヤマダ電機は5月から価格決定の裁量権を店長など現場に与えた。これを機にライバルを同業者からネット通販まで拡大したことから、店舗によってはアマ ゾンなどが提示する価格どころか、顧客の言い値まで値引きして売るケースさえあった。いわゆる『安心価格保証』の拡大解釈です」
とのこと。
ヤマダのバイイングパワー危うし
ライバル社幹部曰く、
「この赤字決算は、電機メーカーとの価格交渉力に大きく影響する。メーカーが強気に転じる分、圧倒的な存在感を誇ったヤマダのバイイングパワーは急速に低下するだろう」
数年サイクルで業界トップの座が交代してきた“下剋上”の歴史を持つ家電量販店。ここのところ、ヤマダ電機は鳴り物入りで進出した中国店舗を相次いで閉鎖している。そこへ赤字垂れ流しの追い打ちである。
とすればヤマダ時代の終焉を危惧する気運は妙に説得力を持つ。
急成長の落とし穴
ヤマダだけでなく、会長が社長に復権するケースが増えているのは、急速な時代変化に対応できる後継者が育たなかったためだ。
たしかに企業の成長に人材の成長が追いつかず頭打ちする事例は枚挙に暇がない。世間は急成長をもてはやすが、歴史上、急成長を続けている企業は一社もない。急成長にあるのは決まって急降下である。
どこまで下がるか?
人材が成長しているところまでである。会社の売上と人材の成長のバランスが崩れた時に、業績は一気に急降下する。
つまり、ヤマダ電機は大企業病に陥ったのではなく、人材の成長がまだ家業のレベルだった、そういうことではないだろうか。
売上と人材の成長のバランス
あるとき、会社の売上が5%伸びた時に、
「なんで5%も伸ばしたんだ!2%で良かったのに。」
と言った人がいた。
少しずつ成長を続け、約半世紀に渡り、増収・増益・増員を実現している伊那食品工業の塚越会長(当時)である。
このエピソードを聞いたわたしの師匠は、塚越会長に直接話を伺ったという。
「塚越会長、”2%”というのはひょっとして人が成長するのが”2%”ということをおっしゃっているのでしょうか?」
すると塚越会長は、
「まったくその通りだ。人は組織全体でおよそ2%位成長する。それ以上に会社を伸ばしてしまうと、人の成長と会社の売上の間にGAPが生まれてしまい、いつの間にか急降下することになる。したがって、2%位じわりじわりと成長するくらいが調度良い」
とおっしゃったそうだ。これがいわゆる「年輪経営」である。
加えて、中には2%以上成長する人材もいるので、そういう場合には、昇格も含めて抜擢すれば良く、組織を必要以上に大きくしたり売上を伸ばしたりし ないよう、注意が必要だとのことだ。
ただし、新規事業など、場合によっては一時的に売上が上がることもありうるが、そういう場合においても人の成長を常に念頭において事業推進すべきだろう。
家業から企業へ
家業が企業になり、会社が永続して繁栄し、関わる人が幸福になる経営を実現するためには、揺るがない経営基盤を作り、オーナー不在でも成長できる堅牢な組織と企業文化をつくる必要がある。
今回のヤマダ電機のように、急速な時代変化に対応できる後継者が育たなかったために、企業から家業に後戻りするケースが増えているが、これはまさに急成長の反動である。
無理な急成長を是とせず、会社の成長と人材の成長を2%くらいに抑制しながら、じわりじわりと年輪を重ねるように、関わる人の幸福を考えながら、永続して繁栄する企業経営を心がけてゆきたい。
最後に年輪経営の塚越さんが経営戦略の柱としてきたという二宮尊徳の言葉を紹介しよう。
遠きをはかる者は富み
近くをはかる者は貧す
それ遠きをはかるものは百年のために杉苗を植う
まして春まきて秋実る物においてをや故に富有り
近くをはかるものは
春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
唯眼前の利に迷うてまかずして取り
植えずして刈り取る事のみ眼につく故に貧す
世の中に2つとないコンセプトをつくり、お客様にとって、一緒に働く仲間にとって、そして地域社会にとって「無くてはならない存在」になる。そのためにできること。それが家業から企業への経営戦略でNo.1ブランドをつくるコンセプト・コアの仕事である。
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